眠る回遊魚

溢れるパッションを記録する場所

ジョー&マリ プロジェクト『熱闘!! 飛龍小学校☆パワード』(6/19 マチネ)

飛龍小学校はいいぞ。

ジョー&マリ プロジェクト。もう名前からしてテンションが上がる。疑いようもないこの二人の名前。赤木ジョーと五十嵐マリ。
惑星ピスタチオの不朽の名作『熱闘!! 飛龍小学校☆パワード』が、ジョー&マリ プロジェクトとして蘇った。もちろん作演出は西田シャトナー氏。
惑星ピスタチオは解散後に知ったくちで(舞台を観るようになったのが解散の翌年くらいからだったと思う)映像で観てすごい衝撃を受けて、関係者用ディスク付きのDVDセットやストーリーブックや上演台本(販売用)をかき集めてリアルタイムで遭遇できなかった悔しさを噛み締めながら想いを馳せていた身としては、今回初めて飛龍小学校を生で観られることにとても興奮していた。
で、観てきてやっぱり面白かったので折角なのでブログに記しておくことにする。twitter始めてからサイトのブログ放置しててこういうの書くの久々なんだけど、鉄は熱いうちに打てだ。飛龍小学校はいいぞ。



http://jandmpro.net



STORY

飛龍小学校。その世界には、小学生しかおらず、始業前と休み時間と放課後しか時間が存在しない。お金を持たぬ彼らの間では、「噂」が貨幣として流通している。
3年生でありながら、飛龍No.1の探偵と噂されるタフガイ・赤木ジョーは、ある朝、運動場地下に眠る古代図書館遺跡から、伝説の宝石「飛龍エメラルド」を発見してしまう。それは、3000年前の伝説の番長が作り出した、1年生でも6年生に勝てる力を秘めた宝石だった。
学校の支配権を競う番長グループと児童会、そして一攫千金を狙う全校のハンターたちの間で、飛龍エメラルドをめぐる熾烈な戦いが巻き起こる。
できれば争いからは無関係でいたいジョーはだったが、腐れ縁でもある2年生の噂ブローカー・マリが、争いに巻き込まれて番長の居城に幽閉されたことを知り、その救出に向かうことを決意する。番長の居城は高学年校舎の最上階。そこは、低学年児童がひとたび足を踏み入れれば生きて帰ることができないという魔境である。
果たしてジョーはマリを救うことができるのか? そして飛龍エメラルドを手にし、学校の派遣を手にするのは誰か? その頃、誰も知らない地底で、飛龍エメラルドの恐ろしい呪いが発動し始めていた…
飛龍小学校最大の噂として未来まで語り継がれる冒険が今、幕を開ける。


その演出手法が2.5次元界隈で広く知られるきっかけになった舞台『弱虫ペダル』(以下、ペダステ)で知ってる人もいるように、シャトナーさんの演出はマイムが多い。具体的な舞台セットはなく、ハンドルだけで自転車漕いでるように見せたり、役者が自販機やガードレールやはたまた時計台の歯車になったりする。パチンコから放たれた弾道が見える。
昨今いろんな舞台でも見かけるプロジェクションマッピングとは真逆の、役者の身一つで作られる実にシンプルな芝居。
飛龍小学校は言葉の洪水だ。だってテロップが出る。映像使ってないのにテロップが出る。ダダダダダッ!したくなりませんか。左下でひっそりと「作演出・西田シャトナー」って出るところ好き。
やってることはごっこ遊び。ただし究極のごっこ遊び。舞台上で役者がここは宇宙だと言えばそこは宇宙だし、小学校と言えばそこは小学校。高学年校舎は恐ろしい魔界都市だし、パカラッパカラッと乗馬の仕草で駆けてくれば彼は馬に乗って現れる。
『お芝居』の基本的な、お約束の極致。
ただ口で言っただけでは「はぁ、そうですか」となってしまうところだけど、ちゃんと観客に映像を想起させるのは役者の力強い表現力の賜物だなぁと改めて思う。
音響効果が(ペダステでもお馴染み)天野さんというのも世界に没入できる信頼ポイントかもしれない。チチチチチ……と錠前を合わせるジョーの背中を観た時から、そこは飛龍小学校の世界だった。

シアターサンモールはそもそも、階段を下って石の壁に囲まれた劇場へ足を踏み入れる構造になっている。この状況、まるで飛龍小学校の地下の古代図書館遺跡みたいじゃないですか。そんなことを考えながら席に着いてもらえれば、まさしく冒頭は古代図書館遺跡の調査シーンから始まるわけだ。
開演前、明るく照らされていた校庭が直前には薄暗くなる。ぼんやりと遠くに青。夕陽が落ちたと思ってぞくっとした。


「百の口からあふれ出た、宇宙に関する千の噂。」
あの群唱をきくとわくわくする。
最後にもう一度、同じ群唱なのに切なさがこみ上げる。


主演の赤木ジョー平野良さんは生だと2012年のキティフィルム版『破壊ランナー』でも拝見していて、またシャトナー作品で会えたことが嬉しい。あの時も初代ジョーである保村大和さんとのコンビだったし(今回カテコで新旧ジョー揃ってアレやられた時ひぇっ!てした)(ありがとうございます!!!)
マリを演じる田上真里奈さんは初めまして。よく通る声で、一声聴いて「マリだ……!」しました。その大きなランドセルを背負った小柄な体からは少し背伸びしたマリの可愛さが溢れてた。小学二年生!可愛い!!
ウォンの和合真一さんも初めましてだけどグラフィックデザイナーからの転身ってすごいですね……遅いデビューと思えない素敵な役者さんでした。ビジュアル公開された時「あ、めっちゃウォンだわ」と納得。
六年生轟天寺番長・萩野崇さん!待ってましたのハギーさん……低学年にとっては巨大な壁のような存在の轟天寺様、その背の高さと小さなランドセルでもって独裁者オーラが出ていて大変良かったです。それでいてお茶目。でも弱音も吐く。忍者不知火の救世主であるところ、あの叫びには少し涙ぐんだ。ここの関係性たまらない。
その不知火VS真面目口パチオのシーンがまた美しい。塩崎さんの背面落ちも跳躍する天羽くんも格好良かった!!塩崎さんのパンフコメントにもあるように、ルーツを同じくした対比が見えてとても良かった。天羽くんはペダステ小鞠さんから知った役者さんだけど、時にコミカルに、時に美しくといろいろな面が見られて良かった。
元々好きだったんだけど荻窪さん演じる裏の飼育委員・猫渡アリスの可愛さ!マドモアゼル可愛いよマドモアゼル!!!
児童会長・遠山キンコの凛々しさの中に垣間見える少女の部分。あの戸惑いめっちゃ身に覚えがある。
古代番長パルテノン田ネプチューン之・保村大和さん。桜ジュリエッタ版から追加されたキャラということくらいしか知らなかったのでどう絡むのかと思っていたけれど、さすがオイシイ……。ヨメマスアゲハってすごい小学生ネーミングの鱗粉で実体化するのたまらないな。呪いを生み出した超古代の彼は異次元でひとりなのか。彼の噂も気になる。

後半のジョーとマリが手をつないで逃げるシーンに勝手に『破壊ランナー』の豹二郎とリンコを重ねてブワッてなっていたのは私だ。走り方だけじゃなく。
握っていた手をそっと剥がす、二人のシーンは美しかったなぁ。

パワードのつかないクラシック版初演から26年。パワードになってからでも20年。それでもちっとも時代を感じさせない。
ピスタチオ版とどっちが好きとかじゃなくてどっちも飛龍小学校で、数多の噂によって作り上げられた飛龍小学校は今日もあの場所に存在するのだ。
人数増えて小学校らしい賑やかさが出たのと、時計台のシーンが迫力あったのが良かったなぁ。


素晴らしい実力あるキャスト陣と美しい照明と心を高揚させる音楽と、とにかく飛龍小学校が目の前に存在することに心躍ったあっという間の130分!
最後に向かって一気に駆け抜ける!さりげない伏線が効く!ページを捲る手が止まらない少年漫画のような熱量のある舞台!!
DVD発売は決まってて、10月中旬に届くみたいですが(会場予約すると送料無料!)この熱量はまず生で体験してみてほしい……

19日マチネは前ブロック後方とサイドの見切れ席に空席が目立ったけれど、後ろを振り返れば埋まっていたので、見えやすい後方から席を埋めてるんだろうなという気遣いを感じてとても良かったです。
ちなみに後方プレミアム席だったんですが、シアターサンモールの前ブロック後方は床がフラットで大変見え辛いので全景の見えるこの位置はとても見やすかった……さすがプレミアム。ありがたい。
客席がそれこそ老若男女問わないっていうか、男性数人のグループとか年配の方同士とかもいてちょっと新鮮だった。作品目当ての人も役者推しの人も、あるいはなんとなく気になってチケ取ってみた人もなんか色々混じってるんだろうなぁと。
ペダステからシャトナーさんを知ってる人も役者推しの人もいい歳した大人がランドセル背負って短パン白靴下履いてる姿を見たい人もちょっと予定空いてるのよね〜って人も新宿御苑前駅徒歩3分、シアターサンモールと言う名の蜃気楼へ是非どうぞ。
飛龍小学校はいいぞ。

(バレなしここまで)



ランドセルを背負わないジョー、あるいは伝説となった男子の話

2016年の飛龍小学校の生徒たちはカラフルなランドセルを背負っている。
恋をしてエスイーエックスの噂を欲しがる背伸びをしたい少女・マリのランドセルは薄紫。
変化する肉体に戸惑う大人になりたくない少女・遠山キンコのランドセルは赤。血の赤、というのもまた皮肉な気がする。
猫渡アリスの鮮やかな黄色いランドセルは貧民街の希望の色か。カメレオンスーツで見えなくなる演出にもランドセルが使われる。他にも黒、青、茶、緑……
ジョーはランドセルを背負わない。

エースは言う。
「……と、奴は言ったんだとよ。(中略)俺様の髪型にかけて嘘じゃねえ。こいつは確かな噂だぜ」*1

続いて真面目口が、ウォンが……登場人物たちが次々にジョーの噂をする。観客はそこでジョーという人物のひととなりを知るのだけれど、最初からジョーについて語られるのは噂だった。
朝の事件を噂という形で振り返っているだけでなく、探偵・赤木ジョーは既に伝説となって、噂となって飛龍小学校に流れているのかなと思っている。
伝説の古代番長がランドセルを背負っていたのは、彼らの接した現実だったから?

*1:セリフは97年版DVD参照