眠る回遊魚

溢れるパッションを記録する場所

舞台『天球儀-The Sphere-』

初日、14日、観劇。あと千秋楽行きます。
末満さんのオリジナル新作!

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STORY

山荘「天球儀」に集められた7人の招待客たち。
そこではある人物の葬儀が行われるという。姿を見せぬ山荘の主からの要求はただひとつ。
「蓬茨奏音(ほうしかのん)の死を悼むこと」。
だが、招待客は誰ひとりとして「蓬茨奏音」という人物を知らないと言う。亡骸のなき葬儀。
「蓬茨奏音」とは何者なのか?彼は本当に死んだのか?
互いに共通点を持たない7人の招待客は、なんのために「天球儀」に集められたのか?
その事実が明らかにされる時、7人の招待客は己の実存を失う──
人間の記憶が脳ではなく、「スフィア」と呼ばれる外装置に置き換えられた世界線の現代日本を舞台に、殺人事件の起こらないミステリーが開幕する。


悲喜劇ではない、不穏に始まり不穏のまま終わる──事前に呟かれていた通りの作品。
どんでん返しを期待して見ると拍子抜けかもしれない。
久し振りに座った紀伊國屋ホールの椅子はやっぱり腰が死にそうになったけれどもそんなこと観劇中は考えないくらい没頭していた。

ヴァン・ダインの二十則、クローズド・サークル、アンドロイドは電気羊の夢を見るか……ぽんぽん飛び出す言葉にニヤニヤした。
殺人事件の起こらないミステリ。
人が死ぬってなんだ?
何を以って人は死ぬんだ?
『熱闘!!飛龍小学校☆パワード』における○○の○○から去ったジョーは果たして生きているのか?みたいなことを思わず考えた。

ひたすらもう、末満作品だなぁっていう。
それをしみじみ感じた2時間だった。

色々なところから集まった実力ある役者がいたからこそ成り立ったなと思う。観る方もくたくたになるんだから、演じてる方はもっと大変だろうな……
末満作品にキャラメルの多田さんが出るんだ!わー!っていう驚きだったし(多田さんに興味を持たれた方はキャラメルボックス無伴奏ソナタ』を観て下さいお願いします)(そうでなくとも創作活動している人には是非観ていただきたい)
ガキさんはとても良かった……舞台で拝見するのは『殺人鬼フジコの衝動』初演以来2度目。終盤の演技に圧倒された。
久し振りに拝見した大家さんは今までいい人の役しか観てこなかったので大分印象が違ってたし、西川くんはタカ兄の印象のままであの鬱々した山荘内での癒しだった。
鏑木和土香は色々ぶっこみすぎて最高だから観てない人は早く観てくれ。松本さんだってこと忘れてた。最高だぞ。
緒月さんとても素敵でした。ミステリ談義にキャッキャしてるのすごく可愛い。
加納さんは飄々とした可愛さがあって、チラシで拝見したお写真とのギャップに驚いた。

DVDにならないそうだから(末満ニコ生での発言)、観られる人はこの機会に是非足を運んで下さい。紀伊國屋書店の4階にある紀伊國屋ホールです。サザンシアターはコナンだから注意。
森博嗣クラスタ(特に百年シリーズ好きな人)には強くお勧めするぞ。



以下、バレあります









彼らの死は悼まれたのか

冒頭、群唱から始まる。
7人がひとつの存在──蓬茨奏音であることの暗示は既にここから始まっている。
冒頭での群唱というとまず浮かぶのはシャトナー演出だけれど、それにおける群唱とは少し扱いが違う。全員全役の『千年女優』でも群唱から始まるんだっけ(まだ観れてないんだけど)。そういうことだろう。
部屋を出ようとする剛立と春海が同じ方向に避けてたり、富と春海がコーヒー飲むタイミング同じだったり、示唆は多い。


登場人物の死亡要因一覧 ()内は享年

春海:交通事故(11歳)
大師堂:階段から足を滑らせて(15歳)
鏑木:学校の教室の窓から転落(13歳)
剛立:巻き込まれた喧嘩で殴られて(27歳)
國枝:海で溺れて(34歳)
出口:うつぶせ寝で窒息死(0歳)
富:実の親に床に叩きつけられ(5歳)

年齢は末満さんが以前上げていた脚本の画像より


蓬茨奏音は自ら死を選んだが、その記憶を持つ7人は外的要因の死が多い。選ぶ余地なく死んだ。
(ふせったーには鏑木はいじめの末の自殺か…?と書いたけど、蓬茨奏音との対比で事故の方が適切なのかなと思い直した)
実の親による虐待で死んだ富が奇跡の生還(スフィア移植手術)を果たしてまたその親の下で生きていくのかなり地獄だなと思ったけど、さすがに親は逮捕されて、まともな方の親か児童養護施設か優しい親戚の下で育てられてると信じたい。

死をなかったことにされた。隠匿された死。
彼らの死は悼まれたのか?
せめて生還を果たした時に「生きていて良かった」と誰かに言ってもらっていればいいのだけれど。


剛立の夢。マスクの意味はわからない。
富:豚
春海:キツネ
鏑木:象
大師堂:アライグマ
出口:猿
國枝:ヒツジ


蓬茨奏音の葬儀を執り行う

富柊子──蓬茨奏音は最後にそのポケットにマッチを入れていた。
「その死を悼むために、僕は死ななきゃならない」
そもそも山荘「天球儀」に集められた招待状には『蓬茨奏音の葬儀を執り行う』と書かれているのだ。
ようやく、ひとつになった蓬茨奏音の葬儀が執り行われる。22年前、蓬茨教授が複製した不完全なスフィアを移植し、別人としての第二の人生を歩ませたために死ねなかった蓬茨奏音の葬儀がしめやかに。
来年、皆が山荘「天球儀」に集まることはないだろう。
自らのための火葬。
その煙は今度こそ天球に届くのか。

末満さんの作品はやっぱりよく燃えるなぁ()
あと雨は皆を閉じ込める。

ざっくり年表

1955年 世界初のスフィア移植手術
1980年 蓬茨奏音誕生
1994年 蓬茨奏音及び7人の死
2015年 蓬茨教授死去
2016年 山荘「天球儀」にて蓬茨奏音の葬儀が執り行われる

日替わり

袋綴じの開いたパラダイスを富が見てる時の春海の言葉。日替わりそこなんですねw
初日「整形ですよ」
21日
春海「グラビアアイドルも大変みたいですよ。アイドルが水着着るようになったから。……富さんはどう思います?その、アイドルが水着着てグラビア撮るの」
富「いやぁ……私にはできません」
春海「いや富さんはしなくていいと思いますよ」


ところでマッシュ鏑木のCDないの?
ブロマイドは???

いや、この後味と世界観でそういうの売る作品じゃないとは思うんだけど、あったら絶対買ってた。せめて歌詞だけでも公開してほしい。
\マッシュルームマッシュルーム♪/ディナーショー楽しすぎかよ。
あの髪型といいアンジェリコフィーバーかと思いました。
ゲネプロダイジェスト映像にちょっと映ってたの嬉しかったです。

『天球儀』好きな人は末満さん言うところの「自己二部作」の前作『Equal-イコール-』は勿論おすすめですし、森博嗣の百年シリーズ2作目『迷宮百年の睡魔』よかったらどうでしょう……(1作目『女王の百年密室』からどうぞ。コミカライズもあるよ)


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オフブロードウェイミュージカル『bare』

音と言葉の洪水を浴びてきた

飛龍小学校の千秋楽から一週間後。
またしても訪れたのはシアターサンモールです(実はその次もだ)

基本的に観るのはストレートプレイばっかり、ミュージカルは正直言って苦手意識を持っていてほとんど観てこなかった私がミュージカル『bare-ベア-』を観てきたのでその感想をまとめておく。

そもそもミュージカルに苦手意識を持っていたのに何で観に行ったかというと、昨秋の『TRUMP』で私を永遠の繭期に落としたアンジェリコラファエロ役の田村良太さんの本領発揮、その歌声をがっつり体験してみたかったというのがあって。
(なんだその厨二丸出しの永遠の繭期とかいうやつは、という人は8/12にDVD出るので観てください)(ステマ

最近ストプレでも挿入歌やOP・ED曲がある舞台(ペダステとか刀ステとか)を観てたり、歌とダンスが本業のアイドルによるミュージカル(LILIUM-少女純潔歌劇-)で打ちのめされたりしていたのもちょっと敷居を低くしていたかな……
ミュージカルに関しては全然有名どころも観てないし知識もないから他と比較ができない上に「何言ってんだこいつ」という部分もあるかと思うので、以下は暇潰しにでもどうぞ。

そんな暇ねぇぞっていう忙しい人のためのbare感想はこれです。
bareはいいぞ。当日券あります。

 

 


STORY

全寮制のセント・セシリア高校。
校長でもある神父の言葉が響くミサでは、卒業を間近に控えた生徒たちが祈りを捧げている。
平凡な生徒ピーターにはある秘密があった。それは、学校一の人気者であるジェイソンという同性の恋人がいること。
いつかは自らを―bare—さらけ出し、愛し合いたいと強く願っていた。
学内の演劇公演のためのオーディションがシスター・シャンテルによって開催され、
美しいアイヴィ、ジェイソンの双子で皮肉屋のナディア、主役を狙うマットも参加し、配役が決定する。
リハーサルが開始されると、ピーターの気持ちはより強いものとなっていく。
ドラッグと酒でトリップするパーティーの中、
気持ちが募るピーターはジェイソンとキスを交わすが、それをマットに目撃されてしまう。
社会、親、友人の目を怖れるジェイソンは自身のイメージを守るため、
ピーターを突き放しアイヴィと一線を越えてしまうのだった。
-bare—になることを求めた彼らの心が絡み合い、そしてついに、一つの終焉を迎える・・・

 

もっと長いバージョンのあらすじは公式サイトへ

 

当日券情報はブログで 

 

7/3(土)マチネ 配役

ジェイソン/鯨井 康介
ピーター/田村 良太
アイヴィ/皆本 麻帆
ナディア/谷口 ゆうな
マット/一和 洋輔

神父/川﨑 麻世
シスター・シャンテル/入絵 加奈子
クレア/秋本 奈緒

ルーカス/松永 一哉
ターニャ/杉山 真梨佳
カイラ/山崎 穂波
ダイアン/嘉悦 恵都
ローリー/伊宮 理恵
ザック/宮垣 祐也
アラン/藤井 凜太郎

 

ダブルキャストが多く、全16公演すべて組み合わせが違うということで、とりあえず知ってる方の出演回にしようと鯨井ジェイソン、田村ピーター回に。

鯨井さんは最初に生で観たのが2011年の『少年探偵団』で、急遽代役で登板という形にもかかわらずすごく上手い方だなーというのが第一印象だった。(あと特典映像の大人対談で惑星ピスタチオの話が出てたことが記憶に残っている)
最近だとペダステの手嶋さん。T2良かった……;;

 

簡潔に言うと、とても良かった。
昨今の挿入歌あり舞台のおかげで慣れてきてたのかもしれないけど、ほぼほぼ歌で進行するのが合ってた。音の洪水、曲に乗せた気持ち…言葉を浴びるように全身で体感できたのが気持ちよかった。
なんだろう、ミュージカルに苦手意識を持っていたのは以前に観たことのあるそれの中途半端な芝居と歌とのバランス…?歌と芝居の繋ぎがシームレスでないのが気になったり、歌も芝居も単独では好きなんだけどミュージカルとして両方いっぺんにこられると自分の脳処理が追いつかずに集中できなくて消化不良感があった。
でも今回は上手い人が集まっているからなのか、はたまた私の経験値が上がったのか、そこまでストレスを感じることなく観ることができたのが嬉しかった。

あとロックミュージカルというだけあって、ロックナンバーが多いのが合ってたんだろうな。これ書きながらbareアルバム曲(英詩verの)を流してるんだけど、まず音楽としてすごく好きなんだわってしみじみしている。
生演奏なのも贅沢だった~!
ダンスもみなさんキレッキレだったので耳だけでなく目でも楽しめた。

声の響きが一番好きだなと思ったのは一和マットと田村ピーターのナンバー『Are You There?』。
鯨井さんも歌は上手い方だしジェイソンの色気も弱さも芝居として大変良かったけど、ミュージカルの曲として歌として、単純に好みの声の調和はあの二人のナンバーでした。キャストが違ったらまた好みも変わるのかも。

 

あの歌声はいいぞ

田村さんの歌声がさぁ…………やっぱ好きでしたって話。

TRUMPの音楽室のシーンで一節歌った時も「!?」したんだけど、レミゼ(ミュージカルさっぱりな私でも名前だけは聞いたことあるぞ)の人連れてくるとかびっくりでしょ……本当にNU版TRUMPはキャスティングが神がかっていた……。もうすぐDVD出るからこの辺のことは改めてまた書きます。

閑話休題

あのまろやかな?のびやかで包容力のある歌声が、時にジェイソンに恋する歓びに溢れながら、時に二人の関係を曝け出すことができない不満と不安に胸を掻きむしられながら、ころころと表情を変えていくの、とても魅力的でした。
それは歌だけじゃなく演技の面でも。
もーーーーなんて幸せそうな表情をするの!!!!!
「愛してる」
「僕を愛して」
「なんで君も同じように愛してくれないの?」
「ねぇママに言おう」
ひたむきにジェイソンを求めるピーターの愛くるしいこと。スキンシップ多め。後ろからのハグとかさーーーーキスシーンも当然あります。上で紹介した記事のゲネプロ写真にもあるけど。まぁいわゆる腐った女子としての意見は以下の通りです。
くっっっそ萌えた。
頬かみしめて頑張って耐えた……安易に腐で釣りたくないけどそれ目当てで観てもいいんじゃないかな…興味を持つ入口は何でもいいよ……

 

同性愛のこと

「自分から言わない限り異性愛者になりすますこともできる。だけど自分を偽ることは、自らを傷つけることでもある」

この言葉を見た時、ピーターだなって思った。

田村ピーターはとっても可愛かった。そしてとても強かった。
ママに打ち明けなくちゃと思ったのにクレアはそれを恐れていて。ねぇピーターその話は後にしましょう。おばあちゃんが呼んでるの。電話切るわよ。シングルマザーでピーターを育ててきたクレアは、その告白をされることで自分の育て方が否定されることを恐れていた。全寮制のセント・セシリア高校に押し込んで、どうにか治ることを期待して──そこでピーターはジェイソンと出会ってしまった。

電話のあとで暗い部屋の片隅で泣き崩れるピーターの悲痛な背中を思い出すに辛い。

鯨井ジェイソンは迷っている。絶対的な父親を持つジェイソン。成績優秀スポーツ万能、学校一の人気者がゲイだと周囲にバレたくない。葛藤。それゆえのピーターに対する態度……けれど取り繕っていた世界が崩壊してから曝け出した弱さ。最後に見つけた確かなピーターへの愛。


キリスト教社会において禁圧の対象であった同性愛。作中は年代はわからないけれど、この作品のロサンゼルスでの初演時(2000年)にはまだアメリカでは同性婚も認められていない(でも一番最初に合法化したのがマサチューセッツ州)。
そんな中でのカミングアウトをジェイソンが「父親に知られたら俺を殴って勘当して、治療のために大学を休学させるだろう」と躊躇うのも仕方がない。本当に、治療すれば治る「病気」だと思われていた時代があって(今も思っている保守層はいるかもしれない)、同性愛者だからという理由で殺される社会だったんだもの。


同性愛者が、理不尽な暴力で殺害される オバマ大統領の行動は https://grapee.jp/111846

www.huffingtonpost.jp


これは1998年の事件。
全州で合法化された現在だってそれを理由に事件は起きている。
ジェイソンの選択を、私は責めることはできない。もちろん、だからといってアイヴィにしたことが許されるかというとそれはまた別の話。

そんな時代背景にあって、ピーターは強い。
私も親に自分のセクシャリティを告白する気はないぞ……結婚しないつもりとは公言してるけど。
自分の場合、カムしても引くとかの前に普通に悪気なくその言葉を否定される、セクシャリティの存在そのものを否定される傾向にあるのがあーまたかってなるんですけどね(Aセクあるある)


田村さんが目当てだったしジェイソンピーターに感情移入するかな~と思ってたら、登場人物みんな、どこかしら身に覚えのある感情とかあって。

ナディアの「デブな私はジュリエットにはなれない」。コミカルに装いつつ、与えられた役割を全うするわという諦め、寂しさ。
アイヴィの「外見ばかり見ないで」。恵まれているようで本当に欲しいものは得られない。大人の振りをして、それでいて誰よりも怯えた子供。
マットの「永遠の二番手」。成績も、好きな子の気持ちもジェイソンに取られて。

同性愛が『タブー』であるキリスト教圏の社会風潮や身体に浸み込んだ常識に翻弄される子供たち。みんな悪かったし、みんな悪くなかった……
皆本アイヴィも谷口ナディアもめっちゃ可愛かったよ~~~~~
「夜になったら電話して。ううん、夜じゃなくてもいい、いつでも電話して」
双子の片割れに言葉をかけるナディアの優しさ。
でもそれに応えられないジェイソン。
ずっと2番手のマットの、ジェイソンに対する感情の発露がああいう方向に出てしまったのはすごくつらい。マットだっていい子なんだよね。
ルーカスもすごくいいやつ…!けれどその優しさがすべてを喪ったジェイソンには毒だった……
この作品が海外においては大学・高校で上演されることが多いというのも実に頷ける話。それくらい、多分普遍的な話。

自らも人種で差別されてきたのだろう黒人のシスター・シャンテルはピーターに寄り添ってくれた。
神父様はジェイソンに寄り添うことができなかった。
「あなたを赦します」
神父様に告げる、ピーターのまなざし。その罪を自らが背負うように。あんなにもまっすぐに、何を見ているのだろう。


役者が違えば芝居の解釈もガラッと色を変える、Wキャストの醍醐味でもあるそれを連日通っているフォロワさんの感想眺めながら感じているので、懐に余裕のある人は複数回違う組み合わせで観てみてほしいし、あわよくば感想を流してもらいたいものである。
岡田ジェイソンも橋本ピーターも気になるんじゃ……

 

 

以下、ラストについて言及しています。

 

 

 

 

 

オーバードーズで朦朧とする意識の中、愛するピーターの腕の中でようやく不安や絶望から解放されたジェイソン。
卒業式、黒衣のアカデミックガウン姿の生徒たちの中を真っ白なジェイソンが歩いてくる。優しく、愛おしそうに、ピーターの背中を抱きしめる。
とても美しかった。

ピーターの傍にはジェイソンがいる。
自らの罪と共にある。

 

ジョー&マリ プロジェクト『熱闘!! 飛龍小学校☆パワード』(6/19 マチネ)

飛龍小学校はいいぞ。

ジョー&マリ プロジェクト。もう名前からしてテンションが上がる。疑いようもないこの二人の名前。赤木ジョーと五十嵐マリ。
惑星ピスタチオの不朽の名作『熱闘!! 飛龍小学校☆パワード』が、ジョー&マリ プロジェクトとして蘇った。もちろん作演出は西田シャトナー氏。
惑星ピスタチオは解散後に知ったくちで(舞台を観るようになったのが解散の翌年くらいからだったと思う)映像で観てすごい衝撃を受けて、関係者用ディスク付きのDVDセットやストーリーブックや上演台本(販売用)をかき集めてリアルタイムで遭遇できなかった悔しさを噛み締めながら想いを馳せていた身としては、今回初めて飛龍小学校を生で観られることにとても興奮していた。
で、観てきてやっぱり面白かったので折角なのでブログに記しておくことにする。twitter始めてからサイトのブログ放置しててこういうの書くの久々なんだけど、鉄は熱いうちに打てだ。飛龍小学校はいいぞ。



http://jandmpro.net



STORY

飛龍小学校。その世界には、小学生しかおらず、始業前と休み時間と放課後しか時間が存在しない。お金を持たぬ彼らの間では、「噂」が貨幣として流通している。
3年生でありながら、飛龍No.1の探偵と噂されるタフガイ・赤木ジョーは、ある朝、運動場地下に眠る古代図書館遺跡から、伝説の宝石「飛龍エメラルド」を発見してしまう。それは、3000年前の伝説の番長が作り出した、1年生でも6年生に勝てる力を秘めた宝石だった。
学校の支配権を競う番長グループと児童会、そして一攫千金を狙う全校のハンターたちの間で、飛龍エメラルドをめぐる熾烈な戦いが巻き起こる。
できれば争いからは無関係でいたいジョーはだったが、腐れ縁でもある2年生の噂ブローカー・マリが、争いに巻き込まれて番長の居城に幽閉されたことを知り、その救出に向かうことを決意する。番長の居城は高学年校舎の最上階。そこは、低学年児童がひとたび足を踏み入れれば生きて帰ることができないという魔境である。
果たしてジョーはマリを救うことができるのか? そして飛龍エメラルドを手にし、学校の派遣を手にするのは誰か? その頃、誰も知らない地底で、飛龍エメラルドの恐ろしい呪いが発動し始めていた…
飛龍小学校最大の噂として未来まで語り継がれる冒険が今、幕を開ける。


その演出手法が2.5次元界隈で広く知られるきっかけになった舞台『弱虫ペダル』(以下、ペダステ)で知ってる人もいるように、シャトナーさんの演出はマイムが多い。具体的な舞台セットはなく、ハンドルだけで自転車漕いでるように見せたり、役者が自販機やガードレールやはたまた時計台の歯車になったりする。パチンコから放たれた弾道が見える。
昨今いろんな舞台でも見かけるプロジェクションマッピングとは真逆の、役者の身一つで作られる実にシンプルな芝居。
飛龍小学校は言葉の洪水だ。だってテロップが出る。映像使ってないのにテロップが出る。ダダダダダッ!したくなりませんか。左下でひっそりと「作演出・西田シャトナー」って出るところ好き。
やってることはごっこ遊び。ただし究極のごっこ遊び。舞台上で役者がここは宇宙だと言えばそこは宇宙だし、小学校と言えばそこは小学校。高学年校舎は恐ろしい魔界都市だし、パカラッパカラッと乗馬の仕草で駆けてくれば彼は馬に乗って現れる。
『お芝居』の基本的な、お約束の極致。
ただ口で言っただけでは「はぁ、そうですか」となってしまうところだけど、ちゃんと観客に映像を想起させるのは役者の力強い表現力の賜物だなぁと改めて思う。
音響効果が(ペダステでもお馴染み)天野さんというのも世界に没入できる信頼ポイントかもしれない。チチチチチ……と錠前を合わせるジョーの背中を観た時から、そこは飛龍小学校の世界だった。

シアターサンモールはそもそも、階段を下って石の壁に囲まれた劇場へ足を踏み入れる構造になっている。この状況、まるで飛龍小学校の地下の古代図書館遺跡みたいじゃないですか。そんなことを考えながら席に着いてもらえれば、まさしく冒頭は古代図書館遺跡の調査シーンから始まるわけだ。
開演前、明るく照らされていた校庭が直前には薄暗くなる。ぼんやりと遠くに青。夕陽が落ちたと思ってぞくっとした。


「百の口からあふれ出た、宇宙に関する千の噂。」
あの群唱をきくとわくわくする。
最後にもう一度、同じ群唱なのに切なさがこみ上げる。


主演の赤木ジョー平野良さんは生だと2012年のキティフィルム版『破壊ランナー』でも拝見していて、またシャトナー作品で会えたことが嬉しい。あの時も初代ジョーである保村大和さんとのコンビだったし(今回カテコで新旧ジョー揃ってアレやられた時ひぇっ!てした)(ありがとうございます!!!)
マリを演じる田上真里奈さんは初めまして。よく通る声で、一声聴いて「マリだ……!」しました。その大きなランドセルを背負った小柄な体からは少し背伸びしたマリの可愛さが溢れてた。小学二年生!可愛い!!
ウォンの和合真一さんも初めましてだけどグラフィックデザイナーからの転身ってすごいですね……遅いデビューと思えない素敵な役者さんでした。ビジュアル公開された時「あ、めっちゃウォンだわ」と納得。
六年生轟天寺番長・萩野崇さん!待ってましたのハギーさん……低学年にとっては巨大な壁のような存在の轟天寺様、その背の高さと小さなランドセルでもって独裁者オーラが出ていて大変良かったです。それでいてお茶目。でも弱音も吐く。忍者不知火の救世主であるところ、あの叫びには少し涙ぐんだ。ここの関係性たまらない。
その不知火VS真面目口パチオのシーンがまた美しい。塩崎さんの背面落ちも跳躍する天羽くんも格好良かった!!塩崎さんのパンフコメントにもあるように、ルーツを同じくした対比が見えてとても良かった。天羽くんはペダステ小鞠さんから知った役者さんだけど、時にコミカルに、時に美しくといろいろな面が見られて良かった。
元々好きだったんだけど荻窪さん演じる裏の飼育委員・猫渡アリスの可愛さ!マドモアゼル可愛いよマドモアゼル!!!
児童会長・遠山キンコの凛々しさの中に垣間見える少女の部分。あの戸惑いめっちゃ身に覚えがある。
古代番長パルテノン田ネプチューン之・保村大和さん。桜ジュリエッタ版から追加されたキャラということくらいしか知らなかったのでどう絡むのかと思っていたけれど、さすがオイシイ……。ヨメマスアゲハってすごい小学生ネーミングの鱗粉で実体化するのたまらないな。呪いを生み出した超古代の彼は異次元でひとりなのか。彼の噂も気になる。

後半のジョーとマリが手をつないで逃げるシーンに勝手に『破壊ランナー』の豹二郎とリンコを重ねてブワッてなっていたのは私だ。走り方だけじゃなく。
握っていた手をそっと剥がす、二人のシーンは美しかったなぁ。

パワードのつかないクラシック版初演から26年。パワードになってからでも20年。それでもちっとも時代を感じさせない。
ピスタチオ版とどっちが好きとかじゃなくてどっちも飛龍小学校で、数多の噂によって作り上げられた飛龍小学校は今日もあの場所に存在するのだ。
人数増えて小学校らしい賑やかさが出たのと、時計台のシーンが迫力あったのが良かったなぁ。


素晴らしい実力あるキャスト陣と美しい照明と心を高揚させる音楽と、とにかく飛龍小学校が目の前に存在することに心躍ったあっという間の130分!
最後に向かって一気に駆け抜ける!さりげない伏線が効く!ページを捲る手が止まらない少年漫画のような熱量のある舞台!!
DVD発売は決まってて、10月中旬に届くみたいですが(会場予約すると送料無料!)この熱量はまず生で体験してみてほしい……

19日マチネは前ブロック後方とサイドの見切れ席に空席が目立ったけれど、後ろを振り返れば埋まっていたので、見えやすい後方から席を埋めてるんだろうなという気遣いを感じてとても良かったです。
ちなみに後方プレミアム席だったんですが、シアターサンモールの前ブロック後方は床がフラットで大変見え辛いので全景の見えるこの位置はとても見やすかった……さすがプレミアム。ありがたい。
客席がそれこそ老若男女問わないっていうか、男性数人のグループとか年配の方同士とかもいてちょっと新鮮だった。作品目当ての人も役者推しの人も、あるいはなんとなく気になってチケ取ってみた人もなんか色々混じってるんだろうなぁと。
ペダステからシャトナーさんを知ってる人も役者推しの人もいい歳した大人がランドセル背負って短パン白靴下履いてる姿を見たい人もちょっと予定空いてるのよね〜って人も新宿御苑前駅徒歩3分、シアターサンモールと言う名の蜃気楼へ是非どうぞ。
飛龍小学校はいいぞ。

(バレなしここまで)



ランドセルを背負わないジョー、あるいは伝説となった男子の話

2016年の飛龍小学校の生徒たちはカラフルなランドセルを背負っている。
恋をしてエスイーエックスの噂を欲しがる背伸びをしたい少女・マリのランドセルは薄紫。
変化する肉体に戸惑う大人になりたくない少女・遠山キンコのランドセルは赤。血の赤、というのもまた皮肉な気がする。
猫渡アリスの鮮やかな黄色いランドセルは貧民街の希望の色か。カメレオンスーツで見えなくなる演出にもランドセルが使われる。他にも黒、青、茶、緑……
ジョーはランドセルを背負わない。

エースは言う。
「……と、奴は言ったんだとよ。(中略)俺様の髪型にかけて嘘じゃねえ。こいつは確かな噂だぜ」*1

続いて真面目口が、ウォンが……登場人物たちが次々にジョーの噂をする。観客はそこでジョーという人物のひととなりを知るのだけれど、最初からジョーについて語られるのは噂だった。
朝の事件を噂という形で振り返っているだけでなく、探偵・赤木ジョーは既に伝説となって、噂となって飛龍小学校に流れているのかなと思っている。
伝説の古代番長がランドセルを背負っていたのは、彼らの接した現実だったから?

*1:セリフは97年版DVD参照